「……え?」

 諦めて首を下へ向け溜息をついた時、急に左眼の義眼に熱を感じた。

 開いた瞼内の硝子玉に、何かがぼんやりと浮かび上がる。左側には視力は一切ある筈もないのに、何故なのかあたしには「それ」が()えた。

「パパ……?」

 徐々に鮮明になる『画面』の真中に、とても辛そうな表情のパパが現れた。

 でも……周りの様子はさっきまでいた山頂とは異なっている。これって室内に見えるけれど、タラお姉様の飛行船内なのかな? でも良く見れば細部が違う……ツパおばちゃんのお師匠様が、飛行船で迎えに来てくれたんだろうか?

『ユスリハちゃんの様子は?』

 これは……タラお姉様の声?

 お姉様らしき問い掛けに、パパの俯いた瞳が持ち上がって、あたしの見える景色から少し上を見詰めた。

『自分が名を呼んだ所為で、リルが捕まったということに気付いたみたいだ……動揺が激しくて、違うと諭しても聞ける状態じゃない。何とか鎮静剤を飲ませたから、とりあえずは眠ったよ……少し様子を看たら、ツパもこちらへ戻ると思う』
『そう……』

 ママ、ごめんなさい……。

 あたしは両手で自分の顔を覆った。脳裏に映る最後のママの顔、聞こえた声、触れた心。あと少しで一緒に帰れるのだと思っていたのに……今は一番遠くなってしまった。差し伸べてくれた手は、結局一度も握り返すことが出来なかった。