「ルヴィ──!!」
「あ……──えっ?」

 その瞬間、あたしの両手はフワリと浮いていた。自力で起きようとしたんじゃない。見えざる力で強制的に……掌に付いた小石がポロポロと零れ落ちていく。上半身が起き上がった頃、それに続くように足先も浮かび上がってしまった。あたしの全身は、まるで誰かに抱えられたように空中で静止し、そして一気に赤い光へ吸い寄せられた!

「「リル!」」
「「ルヴィ!」」
「リルヴィ!」

 全員の声が次々とあたしの名前を呼んだ。抵抗しようと身体に力を入れても、全く自由の利く様子もない。視界の端にツパおばちゃんの弓を引き絞る姿が映った。射られた矢があたしの後ろへ飛んでいく。きっと標的はママ・ザイーダだ。思った通り背後から、化け物のおぞましい断末魔が聞こえた。

「ママっ!!」

 あたしの身体で機能しているのは声だけだった。近付くにつれ鮮明になるママに叫んだけれど、何をどう伝えたら良いのか分からない。「サリファ、約束したじゃない! お願いだから、ママを解放して!!」そうだ……そうだよ! そう叫ばなくちゃ!!

「ジュエル!?」

 なのにその時パパの慌てた声が右耳の方向から聞こえてきて、それどころでないことに気付かされた。サリファの光に引きずられていくあたしへ向け、駆けつけるパパの拳の中で、『ラヴェンダー・ジュエル』が紫色の強い輝きを放ったのだ。

「だ、ダメ! ジュエル!!」

 あたしと『ジュエル』が同時に捕まってしまったら、きっとサリファの思う壺になってしまう。サリファはこれを狙っていたんだ。ママとあたし、二人が危険に晒されたら、ジュエルは出ていかざるを得ない……だからルクがジュエルを手に入れる前でも、パパの瞼から外された時点で、サリファは行動に出たのに違いない!

『心配は無用さ、リルヴィ……われは民を想う善良なお妃。ちゃんとユスリハは返してあげるよ……』

 サリファの声はもう後ろの命尽きたママ・ザイーダではなく、本物のママが囚われている赤い光の中から響いてきた。一体どこが「善良なお妃」だというの!? 今でもママを放さないくせにっ!!