「物分かりが良いのは賢い証拠だよ。さすがはわれの又甥(またおい)だ。さて……仕上げといこうかね。ルクアルノ、お前はウルの許へ行き、『ラヴェンダー・ジュエル』を奪い取ってきておくれ。さもなければユスリハの命はない」
「「そんな……」」

 ルクとあたしの情けない声が重なった。

 ママの姿のザイーダに羽交い締めにされたあたしと、困ったように立ち尽くすルク。あたし達はお互い迷路に迷い込んでしまった瞳を合わせていた。サリファの言うことを聞く以外に道が見つからない……このまま『ジュエル』とあたしがサリファの物になったなら、みんなは、ヴェルは、どうなってしまうというのだろう!?
 
「取ってきてくれさえすれば、ユスリハは解放してあげるよ。それくらいの約束は守ってあげよう」
「ぜ、絶対よ!」

 あたしは思わずルクの代わりに返事をしていた。

 せめて……せめてママだけでも助かって、パパ達と一緒に逃げてくれたら。

 懇願の眼差しが、ルクの戸惑い揺れる視線を刹那に押しとどめる。

「わ、分かった」
「ルク……」

 垂らした両拳を握り締めて、ルクの瞳はあたしから外され、岩壁の向こうのパパに向けられた。

「良い子だね、ルクアルノ。ほうら……われの気が変わらぬ内に、さっさとおゆき」

 ルクは一度あたしの真横の「ママ・ザイーダ」をキッと睨みつけ、ゆっくりと山頂へ上がっていった。ルクのあんな険しい表情、初めて見たかも知れない。徐々に遠く小さくなるルクの背中を見届けるために、ママ・ザイーダがあたし共々身体の向きを変えた。その先にはルクの存在に気付いたパパ達の、驚く(さま)が遠くとも鮮明に見て取れた。