一度登った道なのに、明らかに昨日とは景色が違って見えた。

 「宝物」の半分が戻ってきてくれたことは、あたしの勇気を何倍にも膨らませてくれた。

 今朝の炎も、赤い光線も、ザイーダも……今はちっとも怖くはない。ママがいる、それだけで、あたしの手はもう震えたりなんかしなかった。

「ココからは気を付けないと。出来るだけ身を(かが)めて、まずはあの岩陰まで走るよ」

 昨夜野営を張った場所の先まで到達して、残り少ない木立の影で振り返ったルクは、神妙な顔つきで斜め上を指差した。言い方が何だかちょっとアッシュっぽい。そう思ったら笑ってしまいそうだったけれど、あたしもまた神妙に頷いて、後ろのママの顔を見上げた。

「了解よ。大丈夫、走れるわ」
「うん、無理しないでね」

 ママの頷きと共に、ルクはひっそりとカウントを取った。あのパラシュートを開いた瞬間のように、「GO!」と言われて真っ直ぐ先の岩壁を目指す。森から林、林から岩場へと変化した山の斜面には、三人がスッポリ収まるほどの大きな岩が、山頂まで点々と隆起していた。

「この調子なら、パパの所まですぐに着けそう!」

 幾度目かのダッシュを経て、あたしは息切らしながらも明るい声を上げた。登るにつれ傾斜がきつくなるのは辛いけど、山肌はゴツゴツと波打って、あたし達の姿を隠してくれる。

 駆け上がっては呼吸を整え、とうとうあの赤い光の柱が見えた! その目の前に対峙するパパとアッシュとツパおばちゃんとアイガー。周りの地面にはザイーダの屍骸が何匹も散らばっている。それでも剣と弓を構えた三人と、威嚇の体勢のアイガーの姿は、もう長いこと膠着(こうちゃく)しているように思われた──って? どうして戦いは留まっているのだろう? 人質のママはココにいるのに!?