「おばさん、ボ、ボクが行ってきます。二人で先に下りてください」
「ルク……?」

 あたしは呼びながら後ろを振り返った。あたし達の様子をじっと見守っていたルクの眼にも、決意したように力が込められていた。

「ルクもダメだよ! ルクが行っちゃったら、またザイーダに襲われた時に逃げられない……だったら、あたしが行ってくる! もうサリファの所には、あたしを「ルヴィ」って呼ぶ人はいないのだもの。何の危険もないじゃない!?」
「ええ~……そ、それもダメだよールヴィ! 向かう間にザイーダに襲われたら……」
「じゃあ、一体どうするのよ?」

 あたし達のやり取りに、ママは意味が分からず首を(かし)げた。ひとまず協議(?)を中断して、ツパおばちゃんが教えてくれた「名前後半の秘密」を明かす。再び無言になって思案したママは、仕方なさそうに口を開いた。

「それじゃ、三人で山頂へ向かうのはどう? もしわたし達がサリファに捕まっても、ルヴィを「ルヴィ」と呼ばなければ良いことなのだから、上手くすれば全員で帰ってもこられるでしょ?」
「うん……だけどママ大丈夫? ココまで逃げてくるだけでも疲れたでしょ?」
「大丈夫よ。さ、早く行ってパパ達に知らせないと」

 少しでも腰を落ち着かせたことで楽になれたんだろうか。ママは元気な声を出して立ち上がった。服が汚れているだけで怪我もなさそうだし、顔色も悪くはない。サリファがママのいなくなったことに気付いて、ザイーダを放つのも時間の問題かも知れない。

 ルクが先頭を切り、下りてきた道を登り出した。あたしはママと手を繋いで、その後を並んで追いかけた。

 隣を見上げれば、ずっと会いたかったママが微笑みを(たた)えて、あたしを見詰めている。

 あとちょっと、あと一歩……パパがみんなと無事に帰ってきて、この空いた片側の手を握り締めてくれたなら──!!