「パパは……? ずっと眠らされていたみたいで……もうあれからどれ位経つの? 此処は一体……?」
「ずっと?」

 それならママは自分の髪が使われて、ザイーダが生まれたことにも気付いていないのかも! あたしは温かな胸の中でホッと安堵の息を吐いた。おもむろに顔を持ち上げて、少しだけ口角を上げて説明をした。

「ココはヴェルのシュクリ山だよ、ママ。もう少し上がれば山頂っていうくらいの高さ。ママが(さら)われてから……えっと、今は丸二日が経った午前……パパとはさっきまで一緒にいたんだけど、ツパおばちゃんとアイガーとアッシュと……その……ママを助けに山頂へ向かったんだ」
「わ、たし、を……」

 ママは言われたことを噛み砕くように、俯いて沈黙してしまった。こうして無事にママとは会えたけれど、結果パパとはすれ違ってしまったのだもの。落ち込むのも無理はない。

 それでもしばらくしてママは(おもて)を上げ、意を決したような真剣な眼差しで、あたしの両肩に手を置いた。

「ルヴィは山を下りなさい。ママはパパ達を助けに行ってくるわ」
「え? ダ、ダメだよ、ママ! またママが捕まっちゃったら──」
「でも行かなかったら、ママがもう無事なのをパパ達に伝えられないもの」
「それはそうだけど……」

 あたしは途中で口をつぐんでしまった。確かにパパ達は「ママを助けに」行ったのだ。でもそのママが既に解放されたのだから、正直言って無駄に戦う必要なんてない。だけどそれを知らせるためにママを独りで行かせるなんて、折角無傷で戻ってきてくれたのに……そんな危険にもう一度晒すような行為、決して出来ることじゃなかった。