「……でも」
「え?」

 口元を噛み締めて黙ってしまったルクの俯いた顔に、今度はあたしが否定の言葉を繋いだ。途端さっきのあたしのようにルクの(おもて)が持ち上げられた。
 
「あたしはルクが「ルヴィ」って呼んでくれていて、良かったって思ってるよ」
「ど、どうして?」

 目の前まで歩み寄り、あたしはニッコリ笑ってみせた。戸惑う表情が小首を(かし)げて、キョトンとした(まなこ)であたしに問い掛ける。

「だって~ルクが呼んでいても呼んでいなくても、あたしは結局帰されていた訳でしょ? 独りで山を下りるなんて怖くて出来ないもの。だからきっとルクは、あたしを守るためにずっと「ルヴィ」って呼んでいてくれたのよ。だから、ね! サー・ルクアルノ! タラお姉様のお家まで、あたしの護衛よろしくね!!」
「ラ、ラジャー!!」

 あの時と同じおかしな敬礼が、辺りの空気を(なご)ませてくれた。ルクの口元にもゆっくりと笑みが戻る。良かった……これでいい。きっとこれで……笑顔でさえいれば、パパもママも絶対無事に戻ってきてくれる。