「あっ……は! ははっ……くくくぅ……アハハハハハ!!」
「ル、ルヴィ~……だから「笑わない?」って訊いたのにぃ~~」

 お腹を抱えて笑い出してしまったあたしの前で、ルクは頬を沸騰させながら困惑していた。おもむろに両手を腰に置いて、徐々に表情を憮然とさせる。笑いの止まらないあたしの様子に、さすがにルクも怒ったみたいだった。

「ご、ごめ……ププッ……だってぇ~もっと深い理由があるのかと……思ったんだものー!」
「ど、ど、どうせボクだからねっ、でもアッシュだって同じなんだから!」
「ええ?」

 いやに力の入った言葉尻と、「アッシュだって同じ」という台詞に疑問が湧いて、お腹に向けていた鼻先を持ち上げた。「アッシュだって同じなんだから」──それって本名「アシュリー」の「リ」が付くから、アッシュはあたしを「リル」と呼ぶ、ってことなんだろうか??

 尋ねる前にルクはプイッと顔をそむけて、前を歩き出してしまった。ちょっと笑い過ぎちゃったかな……あたしは後ろから「ごめん、ごめん」と呼び掛けながら、肩を(いか)らせて進むルクを追いかけた。

「本当にごめんなさい、ルク! その……あたしも嬉しかったよールクともアッシュとも同じ「(おん)」を持っているのだなんてっ」
「……でも」
「え?」

 やっと追いついて並んだ肩が、その接続詞と共に停止した。数歩追い越して振り返ったあたしの前には、以前夜道を送ってくれた時と同じく、思い詰めた瞳がこちらを見詰めていた。

「でも……ボクが「ルヴィ」って呼ばなければ、ボクもアッシュと一緒にユスリハおばさんを助けに行けたんだ」
「ルク……」

 両側に垂らした拳が強く握り締められて、ルクがどんなに悔しがっているかが思い知れた。

 ありがとう、ルク。その気持ちだけで救われる。あたしだってルクの気持ちは痛いほど良く分かるよ。だってあたしだって悔しくて悔しくて、もうどうにも仕方がないんだから!