昇ってきた陽に照らされて、煌めき出した木々の葉群れも爽やかな緑の匂いも……今はむしろ気障りに思えた。

 あれから三人と一匹が見えなくなるまで、ルクとあたしは静かに見送っていた。見えなくなるまで……見えなくなっても振り返らないあたしに、ルクはしばらく付き合ってくれた。

「ごめん、ルク……もう大丈夫だから……下りよう」
「う、うん」

 足元を見下ろしながら(きびす)を返す。足場が悪かったからじゃない。ルクと顔を合わせる元気がなかったからだ。

 まさかこんな山頂を目の前にして、引き返すことになるなんて。

 とぼとぼと歩きながら、依然あたしの心と脳内は混沌としていた。

 沢山の謎が明かされた筈なのに、また沢山の謎が生まれてしまった気がする。

 ヴェルが島となって空へ飛んだ時、シュクリ山はどんな「恵み」を与えたのか。

 名も知れぬ少女(サリファ)はどうやって歴史から消えてしまったのか。

 そして本当に彼女が先代王のお妃として生まれ変わったの? だとしたら何故──?

「ねぇ、ルク。ツパおばちゃんがウェスティの話をしていた時、途中で何か言うのをやめたよね……あれって何だったのかな」

 ──『……二十年前、ユスリハと旅していたラヴェルの肉体を、ウェスティが一度乗っ取ったことがありました。その要因がもし後者であるとすれば、実際その力を保持しているのはサリファのみ、ということにもなりますね。だからこそウェスティは──……。……ああ……いえ』

「え……? ご、めん……覚えてない」
「そっか……気にしないで」

 隣を歩くルクの視線はこちらを向いたものの、申し訳なさそうな声色と共に、正面に戻されたことが気配で分かった。

 いつまでもしょげていちゃダメよね。きっと謎はいつか全て解ける。今はパパ達を信じて、これ以上迷惑を掛けないように、無事にタラお姉様のお家へ帰りたい。