「……それは……ユスリハおばさんが起因しているということですか?」

 絶句したあたし達の代わりに問い掛けたのは、アッシュ。

 ママが起因しているって……一体全体どういうこと!?

「察しが宜しいですね、アシュリー。仰る通りユスリハが原因です。彼女はリルヴィを名前の後半「ルヴィ」と呼びます。通常でしたら何の問題もありませんが、サリファの手中にある現在、もし彼女が知らず「ルヴィ」と呼べば、リルヴィを獲得するチャンスを与えてしまうことにもなりかねません。それはルクアルノとて同様です。万が一にもルクアルノがサリファに捕えられ、貴方が「ルヴィ」と口にすれば、リルヴィはサリファの物となるでしょう」
「そ、んな……!」

 そんな……やっとママに手が届く所までやって来たのに! やっと……ママを助け出せるのに!!

 あたしは思わず立ち上がり、叫んだ口元を両手で塞いだ。

「リル、言うことを聞いてくれ。ママを助け出すのに、君が捕まったら意味がない」

 見上げるパパの静かなお願いに、刹那一つの疑問が明らかになった。ずっと気になっていたんだ……パパがあたし達と合流し、ツパおばちゃんの説明を聞く前に、どうしてあたしに「帰りなさい」と一度も言わなかったのだろうって。それはれっきとした「連れて行けない理由」が、あたしを納得させられると思っていたからなんだ。

「パ、パパ、でも──」
「リルはもう十四歳だ。ママの所為で君が捕まってしまったら、ママがどんなに悲しむか──もう分かるだろう?」
「パパ……」

 何か手立てを見つけようと右往左往する瞳が、パパをおもむろに立ち上がらせた。あたしの両肩に手を置いたパパの表情が、瞬間あの時を思い出させる──ママが(さら)われた後、一緒に行くと駄々をこねて、パパに辛そうな顔をさせてしまった時──「リル、どうか分かってほしい……パパは……もしリルとママ、二人が同時に危険な目に遭ったら……どちらかなんて……選べない」