「彼女は美しく聡明で、周りの期待通り王のお眼鏡に叶ったそうです。王家へ嫁ぐ日取りが決まり、ユングフラウの一族が慌ただしく準備を整える中、彼女の姉である母から私が生まれました」

 一区切りをつけた唇に、再びお茶が注がれていく。おばちゃんが生まれるまで、叔母であるサリファは素晴らしい女性であったように思われた。

「母と叔母は仲の良い姉妹だったと云います。これから妃となる幸運に恵まれた妹から、姉である母は祝福を受けたかったのでしょう。私の名付け親になることを求め、サリファも快く応じたそうです。そうして授けられた名、それが──ツパイ……ノーム、でした」
「ツパ……ノーム!?」

 ツパイノーム=ヴェル=ユングフラウ。

 ツパおばちゃんの本当の名前は、ツパイではなくて……ツパイノーム??

「それから彼女は私を好んで「ノーム」と呼ぶようになりました。只、其処には意図があったのです。リルヴィ、貴女はジュエルより過去の幾つかを教えられていますね? サリファの息子であったウェスティが、ラヴェルを本名ラウルの「ウル」と呼び、タラを本名タランティーナから「ティーナ」と呼んでいたのはご存知ですか?」
「え……あ、はい」

 突如(すく)い上げられた過去に、あたしは途切れながらも返事をした。ジュエルが以前見せてくれた昔のヴィジョン……確かにパパはウェスティから「ウル」と、タラお姉様も「ティーナ」と愛称を与えられていた。

「サリファとその息子ウェスティは……名前の一部を呼ぶ許可を得ることにより、その与えた者を操り……時に乗っ取る能力を有していたのです。理由は分かりませんが、彼らは常に名の後半を獲得してきました。ですからラヴェルもタラも、幼き頃からウェスティと過ごすことに疑問を持たず、彼が王位を継承する際も、何の反旗も(ひるがえ)さぬよう、彼らの思い通りに育てられたのです」