「原型って……『ジュエル』は人間だったというのですか!?」

 ルクとあたしは唖然と口を開け、声の出し方も忘れてしまいそうだった。アッシュだけが何とか質問を続けたけれど、それは随分と戸惑いを含んだ声色だった。

「ええ。ですがもちろん普通の人間が、魔法石に変わるなどということは有り得ません。その経緯にはラヴェンダーの力と、このシュクリが関係しているのだと文献にはありました」
「この山が??」

 やっと発したルクの問いに引っ張られるように、あたし達の目線は山頂へ上げられた。ヴェルの人々を優しく見守るが如く、高く聳えるこの静かな山が、一体どんな風に関わっているというのだろう?

「前述しました通り、この四人の少女の内三人は、ラヴェンダーを生業(なりわい)としている一族の娘です。この時未だジュエルの力は存在しておりませんので、ラヴェンダーと言っても通常の色素・香料・薬効を利用していたのみの筈ですが……三家系の少女達はこの力で、生死を彷徨(さまよ)う青年の命と心を癒したのでしょう。意識を取り戻し回復した彼と少女達は、やがて家々を修復し、同じく町を追われ逃げ延びてきた人々に、分け隔てなく食料と住居を与えました」

 一度全てを滅ぼされた町が、彼らと、そして集まった人達の手によって復興を遂げた。

 相当な苦難の果てであっただろうけれど、そこにどうしてシュクリ山が登場し、『ラヴェンダー・ジュエル』の生まれる物語となるのだろう?