見詰めた水面(みなも)が急に赤く染まった。でもこの色はカニじゃない。見上げれば街の方角の空に、立ち込めるおびただしい炎。

 もしかして……大人達が噂していた『町狩り』が始まったのかしら──お姉ちゃん達の不安げな呟きが、アタシの身体を凍らせた。

 草原や山脈の部族が野蛮な武器を使い、他の町を滅ぼすのだという『町狩り』。最近山一つ内側の町が攻め込まれて、生き残りの数人が、命からがらアタシ達の町へ逃げてきたばかりだ。

 今向かっても危ないだけ……とにかく一旦身を隠しましょう──お姉ちゃん達は震えるアタシを連れて、海岸の丘陵、木々が繁った奥の洞穴を降りていった。

 このトンネルは人工的に造られた物だけど、その先は自然に出来た大きな鍾乳洞に繋がっている。そこには数十人が十数日生きられるだけの物資が保管されていた。

 もしも本当にお姉ちゃん達が危惧する『町狩り』だとしたら。皆はココに逃げてくるだろうか? 逃げる人々を追って、『狩人』もココに辿り着いてしまうだろうか?

 お父さんは? お母さんは? お姉ちゃん達の家族は一体どうなるの!?

 アタシ達は鍾乳洞の奥の奥、岩壁の影にしゃがみ込み身をひそめた。

 天井の小さな穴から注ぐ日光が、血のような深い夕焼け色に染まるまで。お姉ちゃん達に(いだ)かれて、アタシはいつの間にか眠っていた~