~その朝はいつになく冷え込みが厳しかった。

 日の出前からこっそり家を抜け出して、海風が頬に痛い岸辺へ急ぐ。

 もう「お姉ちゃん達」は磯の手前に揃っていた。

 太陽の光が注ぐと共に、岩影から出てくる小さなカニを捕まえるのだ。

 身体も年齢も一番小さなアタシを心配して、お姉ちゃん達が手を伸ばし岩礁へ(いざな)った。

 大丈夫よ! アタシ、もう十四歳だもん!

 「だもん」って言い方がまだまだ子供だわ──お姉ちゃん達はそう言って笑うけれど。

 仕方がないじゃない、口癖なんだもん!

 ほら、また「だもん」って言った──三人の綺麗な笑い声がアタシを包み込む。

 やがて夜が明けて、キラキラと散らばる陽光が海面を輝かせた時、まるでルビーのような赤いカニが、大きなハサミをニョキニョキと出してみせた。

 歓声を上げたくなる口元を引き締めて、慌ててトングを突き出す。ハサミに(つま)まれてしまったら、指を怪我してしまうもの。

 でも残念~! カニはアタシの気配に驚いて、再び岩陰に隠れ、そのまま逃げてしまった。

 もう少し慎重にいかなくちゃね──お姉ちゃん達に諭されて、アタシがぷうっと頬を膨らませたその瞬間。