「あ、あ、あ、ありがとう……アイガー……」

 見える空は、既に(もや)も晴れて青かった。そう、あたしは今、大地を背にして横たわっている。

 ツパおばちゃんとアイガーには、見事にお披露目してしまったに違いないけれど。パパとアッシュがあたしの叫びに振り向く前には、きっとあたしの全裸はアイガーに遮られて、間一髪守られたと思う。いや、そうであることをひたすらに祈りたい。

 アイガーは叫びと同時にジャンプして、あたしの前半身を覆い隠してくれた。でもそのまま飛び掛かられたあたしは後ろに倒れ、つまり現状アイガーに押し倒されているという訳だ。

 隠せたのは良かったけど、髪も身体ももう一度洗わないとなぁ……。

「ラヴェル、アシュリー……ルクアルノは失神しているからともかくとして……二人共、何も見なかったでしょうね? リルヴィももう十四歳です。父親にも見られたくないものだと思いますよ」
「「見てません! 見てません!」」

 ツパおばちゃんの幽かにドスの効いた質問に、パパとアッシュは慌てて否定し(かぶり)を振った。おばちゃんの言う通りだよ……そして本当に見てないでしょうねぇ!?

「ラヴェル、貴方も娘のこととは云え、動揺し過ぎです。いい加減剣を収めてください」
「……ごめん、ツパ」

 パパは反省するように小声で謝り、剣を元に戻した。

 それから急いで湯を沸かし直してもらい、あたしはもう一度簡単に湯浴みを済ませた。その間にルクは目を覚ましたみたいだけど、あたしが現れた際に、案の定顔を真っ赤にしてみせた……。

 少し遅くなってしまった朝食を、ピータン以外の全員で(せわ)しなく掻き込む。当のピータンはと言うと、登山中ずっと夜の見張りをしてくれたそうで、パパの胸ポケットの中で熟睡し、覗いても目覚める様子はなかった。