夜が更けて、葉群れに囲われた丸い空は、真っ黒な暗闇に覆われていった。目の前の焚き火が頬に温かい。男性陣は炎の向こうの木々の根元、あたしのテントにルク、一人しか入れなくなってしまった二人用テントにアッシュ、そしておばちゃんの寝袋でアイガーも静かに休んでいる。

 今宵の夕食、あたしは残り僅かな缶詰からコンビーフを拝借し、リュックの底に入れてあった玉ねぎと一緒に小鍋で炒めた。右手へ下った窪地で谷を流れる清水を見つけ、飯ごうで炊いたショート米と合わせてボリュームを出した。強めの胡椒とコンソメの味付けで、なかなかの好評を得ることが出来たけれど、ドライトマトと干しベーコンで作ったスープは少し味気なくて、ママの具沢山ポトフが恋しく思い出された。

「あの……ツパおばちゃん」

 昨夜のアッシュのように、火を転がしていた枝の動きが止まる。おばちゃんは無言でこちらを向き、あたしに首を(かし)げた。炎から逸らしても、やっぱりおばちゃんの瞳は赤く輝いていた。

「サリファが言った「二千六百年の執念」てなあに? それに「ノーム」って……ツパおばちゃんのことなの?」
「……」

 おばちゃんは答えないまま首も手も戻してしまった。再び掻き回された炎が、パチパチと火の粉を巻き上げる。

「どちらもラヴェルと合流出来た際にお話致しましょう。彼に追いつかなければ、一つも事は始まりません。それにルクアルノにも知る必要がありますし、アシュリーも知りたいと願うに違いありません」
「ルク?」

 アッシュの「願い」はともかく、ルクに「必要」があるとは意味が分からなかった。でもきっと、明日にはパパにも会える筈。今のところ山頂で動きは見られないし、パパも救出と攻撃を仕掛けるのは、翌日を考えているのだろう。