あたしは二人で会話を始めた両親を背にして、独りキッチンへ向かった。ケトルを火に掛け、リビングに向かい合わせの流しに立つ。楽しそうに談笑するママの横顔とパパの広い背中が見える。パパの左眼は義眼だから、ママは必ずパパの右側に座るのだ。

 小さい頃はママがパパの正面に座って、二人の間に座らされることが多かった。そうすればパパはあたしとママ、二人が良く見えるし、二人共あたしの面倒を看られたから。でも大きくなってからはパパの真ん前が多い。もう癖なんだろうか? パパの右斜めにママ、そのまた右斜めにあたし。そうしてパパはいつもあたしの真正面でニコニコと笑っているのが定番だ。

 お湯が沸いてケトルがピーピーとあたしを呼んだ。ポットに移して二人の許へ。数分してティーカップを彩ったのはラヴェンダー・ティー──『ジュエル』の色とパパの髪色。

「あ、そうそう~ルヴィ! ジュエルはいつも通り、ヴェルに着く前に保管庫に入れなきゃダメよー。忘れない内に戻しておいてちょうだい。あなたも久し振りだから早く慣れておいた方がいいでしょ?」

 その色を見たママが、思い出したようにあたしの左眼を指差した。ああ、やっぱり今回も保管しないとダメなのかー……ジュエルも今のヴェルを見たいと思うんだけどなぁ?

 不服そうに相槌を打ったあたしは(きびす)を返して、キッチン・カウンターに置かれた小さな保管庫を開いた。仕方なく左眼に挿し込んでいたジュエルを取り出し収納する。

 ──ん? あれ? 言わなかったっけ? あたしもパパと同じく左眼が義眼なのだって。更にいつもは『ラヴェンダー・ジュエル』を義眼として挿入してるって~?

 だってラヴェンダー・ジュエルは、薄紫色の瞳みたいな宝石だから!

 そしてあたしは……ジュエルを宿すために生まれてきた……『次代継承者』だからだよ──!!