誰か! おばちゃんを助けて!!

 刹那、邪魔者なだけだった断崖の上から、細い影が舞い降りた。まるであたしの祈りが届いたように、目の前に現れた白い化け物を一刀両断して、吹き出した赤い血潮が地面に飛び散った時、やっとその姿がアッシュだと知った。

「アシュリー……」
「ア、アッシュ!!」

 ツパおばちゃんは放心しながら岩の壁に寄り掛かり、あたしは半ベソでアッシュに抱きついてしまった。きっと一生懸命走ってきてくれたんだ……あたしを受け止めた彼の胸は、まだ大きく揺れていた。

「リル、ツパイおばさん……ご無事ですか?」

 見上げたアッシュの表情は、焦りと安堵と口惜しさが(にじ)んでいた。ごめん、心配を掛けて……あたしは唇を引き締めて、ゆっくりと頷いた。

「お陰で助かりました。アシュリー、お手間を取らせましたね」
「いえ……かろうじてアイガーの鳴き声が聞こえたもので……でも、すみません……こういう事態までは予測していませんでした」

 そうしてアッシュは僅かにあたしから顔を逸らし、苦々しく俯いた。こんなこと、あたしだって想像もしてなかったよ……誰のせいでもない……アッシュだって、ツパおばちゃんだって!

「ザイーダを生み出せるのは、ウェスティのみだと思っていましたからね。まさかサリファまで……其処まで力を所持しているとは、私も気付きませんでした」

 ザイーダ……やっぱりあの化け物は、白くてもザイーダだったんだ。昔ラヴェンダー・ジュエルの力を手にしたウェスティが、魔法で造り出した黒い化け物。でも確かウェスティは、自分の黒髪をザイーダに変化(へんげ)させていた筈。今回白かった理由って──まさか!

「お、おばちゃん……ザイーダの毛色が白っぽく見えたのは……」

 問い掛ける唇が震えてしまった。現状サリファに実体はないのだ。そのサリファがザイーダを作ることの出来た理由は、きっと(ただ)一つ。