「速い……!」

 おばちゃんも化け物も、こんな道なき道でもすばやかった。

 本来ならおばちゃんは弓を射て、化け物にとどめを刺したい筈。けれどそのための間合いは全く取れず、弓を構えるどころか、矢を手にする余裕もなかった。

 アイガーはあたしと併走して吠え、とうとうザックの端を咥えて引き止めてしまった。お願い、アイガー! あたしを守らなきゃって気持ちは分かるけど、あたしはツパおばちゃんを守りたいの!!

 え? あたしなんかがどうやっておばちゃんを守れるのかって!? ──ううん、良ーく考えてみて。方法はない訳じゃない。こんな非力なあたしでも、一つだけ『秘策』と呼べる(すべ)があったりするのだ。あたしだって何も出来ないまま、ここまで連れて来てもらったつもりなんてない。そう、思い出して……あたしが『ラヴェンダー・ジュエル』の元宿主だってこと。『ジュエル』に魔法を掛けられた者には、必ず『跡』が残される。今までの日常には必要がなかったからなのか、残念ながら視ること以外に一度も魔法を使えたことはないけれど、生まれた時からジュエルを宿してきたあたしにも、魔法の『力』は残されている筈。今この時点、たとえジュエルがなくたって、『跡』であるその力が目覚めてくれたら──!

「ツパ……おばちゃ──!!」

 少し傾斜を登った先に身長ほどの岩壁が現れ、おばちゃんの行く手を(はば)んでいた。逃げ場は横へ逸れるしか道がなく、急遽方向を九十度左へ変える。スピードの緩んだ分、化け物は更に迫ってきて、あたしは力の覚醒を待つどころか、呼び掛けなんて発している場合ではなくなって──