「事情って? サリファのこと!?」
「……はい」

 おばちゃんの返答は更に重苦しくなった。やっぱり自分の叔母があの大虐殺の首謀者という過去は、ツパおばちゃんをずっと縛りつけてきたのだ。あたしはそう確信して、独り無言で頷いた。

「タラの家でそんな話になりましたか? ……本来なら、ウェスティが二度目の事件を起こす前に、私はラヴェルの背中を押すべきであったのです。結界内に閉じ込めていた叔母と従弟(いとこ)を葬ること……ですが私がその機を(うかが)っている内に、ウェスティは蓄積した力を放出してしまった。そして今回も……全ての責は私にあるのです」
「そんなこと……ツパおばちゃんのせいじゃないよ! パパだってきっとそんな風に思ってない……だからパパはおばちゃんに、首相になることを勧めたんだよ!!」
「リルヴィ……」

 いつの間にか叫んでしまったあたしに、ツパおばちゃんは戸惑う(まなこ)を見開かせた。二人して歩くのを止め、向かい合わせになり、アイガーも少し先で振り向いた。

「違うのです、リルヴィ……私は──」

 その時──突如アイガーが吠え立てた。サッと寄せたあたしとツパおばちゃんの視界の遠く木々の奥、繁みがガサガサと音を放ち揺さぶられる。刹那アイガーが戦闘態勢に入るかの如く、前身を下げ腰を上げ、低い唸り声を上げた!

「な、何……?」
「リルヴィ、下がってください……アイガーも下がりなさい! 貴方はもう十匹の子犬の父親なのですよ!!」
「えええっ!?」

 アイガーったら、いつの間にパパに!?

 ツパおばちゃんの大声に、繁みから白い影が飛び出した!

 それは大きく飛び跳ね、同時に飛び掛かったアイガーの上を飛び越し……あたし達目掛けて襲ってきた──!!