「ねぇ、おばちゃん。おばちゃんこそ、昨日どうしてあんなにほっぺを赤くしたの? えーと……確か、弓のお師匠様のお話になった時!」
「……え?」

 途端おばちゃんのほっぺも、昨日のように赤みを取り戻す。まるで質問を逸らしたいように、サッと(おもて)を逸らして先を歩き出した。

「あ、あ、赤くなどなっておりません!」

 いや~明らかにまっかっかだってばー。

 あたしは慌てて後を追い、おばちゃんに並んで横顔を見た。

 あれ? でも、この状況ってなんか……あたしの動揺に似てる??

「ツパおばちゃんも弓のお師匠様と何かあったの?」
「……? それはどういう意味ですか? 私「も」とは?? ……リルヴィに何かあったということですか?」
「──えっ! あ……いや~……」

 思わぬ逆襲に口ごもってしまった。やっぱり自分のことを話さないで、おばちゃんの話を探るのは難しいなぁ。

「おばちゃんはどうやってお師匠様と知り合ったの? 誰かからの紹介??」

 益々スピードを速めるおばちゃんに、前方を注視しながら必死について行く。時々向けられるあたしの視線に、数回揺らぐ眼差しを合わせたのち、おばちゃんはついに観念と口を開いた。

「師と出逢ったのは偶然です。二年前、アイガーとこの森を散策していた折に遭遇しました。あちらは狩りの最中で……師の猟犬とアイガーが仲良くなったことが始まりでした」
「え? アイガーが!?」

 おもむろにあたし達の前を歩くアイガーを見やる。自分が話題に上ったことに気付いたのか、アイガーは嬉しそうに尻尾を振った。

「アイガーがその猟犬を大層気に入ったこともあり、お会いする機会は増えていきました。それを機に、弓をお教え願いたいと申し出たのです。初めは承諾いただけませんでしたが、事情を伝えて何とか……」