多分、きっと、朝までたっぷり眠った筈……!

 だって眠気なんてちっとも感じないもの! 眠った覚えなんて……まったくないけど!!

 身体は昨日の疲れを背負ったまま、それでもあたしは問われたくなくて、キビキビと先頭を歩いていた。

 何をって~!?

 もちろん昨夜のことだってば!!

 べ、べ、別に~ただの「おやすみのキス」だってことは分かってるよ! あんなに唇に近かったのも、あたしが立ち上がる途中でされたから、アッシュの手元ならぬ口元が、きっと狂っただけなんだ!!

 なのにどうしてだか、あたしはアッシュの顔が見られないまんまで……そんな動揺を隠したいと思ったせいか、ルクの顔も見られなかった。

「アシュリー、ルクアルノ。悪いのですが昨晩のように、お先に昼食を取りやすい場所を見つけて、準備を進めておいていただけませんか?」

 気持ちの落ち着かないザワザワした背中の後ろで、ツパおばちゃんの淡々としたお願いが聞こえた。その声に驚いて、急いで足を止め振り返る。了解したアッシュはあたしの横を通り過ぎながら、「それじゃ、ゆっくりおいでね」と声を掛けて、ルクと共に目の前のけもの道を登っていった。

「どうして? ツパおばちゃん。あたしなら、まだまだ大丈夫よ!」

 歩み寄るおばちゃんへ、あたしは元気をアピールしようと一層大きな声を出した。でもおばちゃんは(いぶか)しそうな表情を変えず、首を(かし)げ、

「本当ですか? ではどうしてそんなに顔が赤いのです? 熱があるのを我慢しているのではないですか?」
「え……」
 
 と、相変わらずの真っ赤な瞳で、あたしの「きっと同じように赤い」ほっぺを凝視した。

 ん? 同じように赤い……??