「道は緩やかだったけど、ツパイおばさんの歩調も速かったし、結構な距離を歩いたと思う。普通の女子だったら途中で根を上げているよ。リルは十二分に頑張ったし、数時間で起きてくるなんて凄いよ」

 アッシュはそんなあたしを柔らかく見上げて、いつものように励ましてくれた。なのに隣の切り株へ腰を下ろしたあたしは、何となくアッシュの顔が見られなかった。

 彼の握る枝が火を転がして、揺れる(あか)が力を増す。紅──サリファ。疲れてなんかいる場合じゃない……早くパパに、そしてママの許に辿り着かなくちゃ!!

「テントは寒くなかった? ブランケットは足りてる?」

 何も返事をしなかったあたしの横顔に、アッシュはもう一度声を掛けた。なんか、ごめん……落ち込んでいるつもりはないけど……アッシュが優しければ優しいほど、弱音を吐いてしまいそうだよ……。

「うん……あったかいから大丈夫」

 この焚き火のように、サリファの心も温かければ良かったのに。

 何とか絞り出したあたしの答えに、今度はアッシュが応えなかった。再びの沈黙が気になって、見上げた彼の横顔は薄っすらと笑んで……やっぱり綺麗だった。

「あのっ……」
「んん?」

 振り返るペール・ブルーグレイの瞳。火と混ざり合って、一瞬ラヴェンダー色に見える。

「アッシュ……どうしてこんなに危険な思いまでして、あたしのパパとママを助けに来てくれたの?」

 ヘタをしたら死んでしまいかねないのに……幾らあたしを家族と思ってくれたとしても、他人の両親のためにこんなこと、普通だったら出来ないよ。

 おもむろに枝を置いたアッシュは、あたしの真剣な瞳を真っ直ぐ見詰めた。にっこりと笑った顔は、いつも以上に優しかった。