お母様は何をさせる気よ。お願い、龍二、無茶だけはしないで。私、龍二を失ったら……生きていく自信がないモノ。

 内なる私の声とは裏腹に、お母様は試練の内容を龍二へと伝える。
 その内容は──。

「試練は簡単ぞ。妾の娘とソナタの愛が本物か試す、それだけじゃ」
「本当にそれだけですか? そんなの簡単すぎます。だって、僕と神楽耶は……心から愛し合っているのですから」
「その言葉……最後まで持つといいの。では、神楽耶よ、あの男を愛していないのなら、このナイフで刺しなさい」
「はい、お母様。私の気持ちを、あの方へ伝えればよろしいのですね」

 えっ、そんな……。ダメよ、お願い、私の体、言うことを聞いて。そんなこと、私は全然望んでいないんだからっ。

 私の意思など無視し、お母様より一本のナイフを受け取ってしまう。外側の顔は表情をまったく変えずに、龍二の元へゆっくりと歩み寄っていく。
 そして、目の前まで来ると……私はそのナイフを振り上げていた。

「神楽耶、僕は信じてるよ。今、目の前にいるのは、本当の神楽耶じゃない。そんなことは分かってる」

 えっ、どうして分かるの。私の心が伝わったとでもいうの。でも、もしそうなら……お願いだから、逃げてよ。今の私は自分でコントロールできないんだから。

「大丈夫だよ、神楽耶。心配しないで。僕はね、本当の愛を信じてるんだ。僕は神楽耶を心から愛してる、それは神楽耶も一緒でしょ。だから、愛の力を信じるんだ。愛はどんなものより、強い力なんだよ。たとえ、魔性の力であっても、打ち破れるはずたからっ」

 龍二……。私も愛しているわ。心の底から、アナタを愛しているの。だから、龍二の言葉を信じるわ。絶対、絶対に負けない、アナタを失わさせないって心からしんじてるんだから。

 内側の私は必死に抵抗する。祈りを捧げ、龍二への愛を誓っていた。
 しかし、外側の私は……龍二にナイフを突き立てようとしていた。