「……コホン。ハニー、大切な話があるんだ。聞いてくれないかな」
「龍二、大切な話って何かな?」

 観覧車が頂上に差しかかろうとすると、真剣な眼差しの龍二が私を見つめていた。
 何度か見たことのある力強い瞳。
 私は吸い込まれるように、彼の瞳を直視してしまう。

 狭い空間の空気は張り詰め、龍二が本当に大切なことを話そうとしている、私はそう理解した。

「あの、僕と……結婚してくださいっ。ずっと前から、ハニーを、ううん、神楽耶のことが好きだったんです。どうか、僕の気持ちを受け取って欲しいんです」

 目の前に出された指輪ケース。
 中には、光り輝くひとつの指輪が収まっている。
 結婚指輪……とまではいかないが、安物の指輪にはまったく見えなかった。

 け、結婚!? 私と龍二が……。そんな、早い、よ。で、でも、きっと私は龍二以外の人は愛せない。べ、別に場の雰囲気に、流されたわけじゃないけど。
 そうよね、早くたっていいじゃない。私には、龍二しかいないんだからっ。

「龍二、私、その申し出を受けますわ。その、年齢的に婚約という形になりますけど」
「本当かい、神楽耶。僕と結婚の約束をしてくれるんだねっ」
「はいっ、不束者ですが、よろしくお願いしますわ」
「指輪、ハメてあげますね」

 紅潮した顔で静かに頷くと、龍二は優しく私の左手薬指に指輪をハメてくれた。私は太陽にかざしながら、何度も眺めてしまう。

「あのお客様、地上に着きましたので、降りていただきたいのですけど」
「僕たちはもう一周のるから、このままでよろしく」
「……それはできませんよ、龍二様。二人には降りていただけませんと」

 係員の冷徹な視線が私と龍二に向けられる。
 思わず固まってしまい、その係員を見つめていた。
 しかし、私にはその顔に見覚えがあったのだ。

「──!? か、佳奈さん。どうしてここに……」

 佳奈さんの不敵な笑みとともに、観覧車はゆっくり止まってしまった。