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どうしよう。ついにやってしまった。千秋はなんにも悪くないのに。自己嫌悪に陥りながら、私はピアノの鍵盤に頭を下ろした。私のぐちゃぐちゃな心境を表すかのように、ピアノが不協和音を奏でた。
「…胡桃ちゃん、そのピアノ、スタ●ンウェイだよ」
ハッとして顔を上げる。スタ●ンウェイというのは、ヤ●ハよりもいい音のする、とてもお高いピアノなのだ。この学校は音楽にも力を入れているので、ピアノまでもが高価なものになっている。
「…ごめんなさい」
申し訳なくなって、ピアノに頭を下げてしまう。
「まあいいけど」
「…うぇっ??」
ピアノの脇に、スコアを持った少女ーー泉先輩が立っていて、思わず変な声をあげてしまった。
「せんぱい、、なんでここに、、」
「…ハァ。ピアノ、貸して?練習したいの」
「、はい!すみません…」
泉先輩は、ピアノの前に座ると少し深呼吸をした。そして、ピアノの鍵盤に手を置く。
いきなり怒涛の勢いで始まったのは、ベートーヴェンの「悲愴」だった。泉先輩らしい演奏に息をのみ、しばらく静止していたが、ハッとして慌てて教室を後にした。