「…胡桃、どこ」
「ごめんって、らそんな怒んないで…中庭で食べるって言ってたよ。最近暑くなってきたし、外で食べる人少ないんじゃない?」
「そ。さんきゅ」
「いってらっしゃーい」
さっきの悪魔の笑みでにこにこと手を振る佑樹に呆れながらも、彼の席を離れる。
窓越しに中庭を眺めてみると、確かに日陰のベンチに、見覚えのある人影が見えた。急いで階段を駆け降りて、中庭へとはいり、後ろから声をかける。
「胡桃、俺も一緒に食べていい?」
えっ、と、驚いたような顔で振り向く胡桃に微笑みかけながら、拳二つ分くらい離れたところへ腰を下ろす。
「…お弁当、きれい」
「そっ、そうかな?昨日の残り物を詰めただけだよっ」
「でも、アレンジしてるでしょ?ちょっと違う料理になってる」
「うん、まあね…」
少し謙遜しながらも、嬉しそうに頬を緩める胡桃に、またもやドキドキしてしまった。
それからは、なんと言えばいいのかわからなくて、ただ黙々とお弁当を食べることしかできなかった。
ーパタン、と、お弁当の蓋を閉める音にハッとする。胡桃はお弁当箱を片付け始めていた。
「もう教室に戻るの?」
「うん」
小さく頷き、立ち上がった胡桃は微笑んでいた。
「一緒に過ごしてくれて、ありがと」
それだけ言い残して、彼女は颯爽と教室に戻っていった。