八咫烏《ヤタガラス》



疑問と同情の念を頭の隅で考えれば、ケホケホと明らかに咳き込む女子高生。


「お…金。お金、払い、ますか、ら」


弱々しい声がそう紡ぐ。


馬鹿だろ、この女。平和的解決なんて無理に決まってんのに。


お金払ったところで、表通りならともかくとして、裏通りにいるような輩には通用しない。


金なんて取られて当たり前。



有難く差し出しておけばいい。そうすれば、少しは優しくしてもらえるんじゃない?


この裏路地は喧嘩に飢えた輩の集まる場所。それを皆、分かって、同意した上でここにいる。


ここでは、同等かそれ以上の力を示すか、女なら身体という対価が必要に決まってんだろ、と嘲るように鼻で笑って、ふと気づく。


_______あたし、この声知っている。


絶対聞いたことある。そう確信する。


でも、学校で聞いたわけではない、と思う。


だって、そんなどうでもいい人たちの声、あたしが覚えているはずないんだから。


「金菱のやつの財布には興味あるけど、俺はそれよりも…」


誰だ。誰だ。誰だ。気持ち悪いことを言う男の声が、記憶を探る邪魔をする。


思い出せそうで思い出せない記憶にイライラする。


「お願い、します。やめて」



誰だ。誰だ。誰だ。



「助けて、お兄ちゃん」


ぎりぎり届いた小さな震える声。


それに伴い、蘇る記憶。重なるあの時と全く同じ台詞とシチュエーションに呆れを通り越して、もはや笑いでも出てしまいそうだった。


代わりに出たのは、大きな溜息。


あぁ、わかったわ。あいつの妹だ。