八咫烏《ヤタガラス》



「ていうかさ」


さっきまでの笑いとは裏腹に、急に落ち着いた声が上から降ってくる。

何十年も一緒にいるあたしでさえ、ビクッとさせてしまうほど、圧のある声。


真意が何か知るために、ゆったりと左に首を向ければ、祈織と視線が絡み合う。


あ、失敗した。


顔向けなきゃ良かった。


そう気づいた頃には、もう手遅れだった。


捕らえられた視線。グッと力の入ったこの瞳からは逃げられない。


逸らすことは、誤魔化すこと。


誤魔化すことは一切許されず、ただその双眼を見つめるしかできない。


「あれだけ、蛍は八咫烏のこと避けていたのに、相手に自分から八咫烏だってバラすとか、どういう心変わり?」


グッと唇を噛んだ。


祈織は、本気だ。本気で探りにきてる。


でも、昨日のあれは、あたしにもよくわかんない。


ただの気まぐれ。勿論、あれは牽制の意味があった。


いや。


これはただの言い訳、か。


直感的だった。


助けないと、って得策じゃないってわかってはいたけど、気づいたらそう脳が判断を下していた。


きっと、あいつの妹だってわかっていたから。





________ただの自己満足。


そう。ただの自己満足でしかない。


だけど、それを祈織に言うのは、とどうしてか、少しの躊躇いと憚りがあった。