周りに聞こえないように、小さな声で昨日あったことを簡潔に話す。
「は?何それ。蛍が人助け?」
「まぁ、そういうことになるのかな」
「有り得な。あれだけ、面倒くさがりでどんな時でも、傍観者側から降りようとしない蛍が?」
ケラケラと笑う彼。
「ちょっと、祈織。あたしが普段、最低な屑なやつみたいじゃん」
「え、最低な屑だろ?」
いや、そうだけど、そうなんだけど。
もう少し、言い方というか。親しき中にも礼儀あり、じゃないの?
だけど、ここで怒るわけにはいかない。
「…とりあえず、最低でいいから、もう少し声のトーン落として」
この制服を着ている時は、あたしはお淑やか系優等生っていう設定なんだから。
優等生とは真逆の性格で、何より面倒を嫌う外面詐欺師だなんて、微塵であっても思わせちゃならない。
そんなあたしとは正反対に、自由人な祈織はといえば、団子の竹串を相手に刺すとかヤッてるわァ〜と、未だにケラケラと笑い続けている。
隣であたしは、黙れ黙れというように、周りの通行人にバレないように、祈織の脇腹を突っつく。
俺もその場に居て、見たかったわ、なんて悪魔の囁きが隣から降ってくるけど、多分、現実だったら、きっと余裕で血祭り案件。
最近は落ち着いてきたものの、常に喧嘩腰で、刺激と喧嘩を求めるような戦闘狂な男がその場に居たら、もう、ね。
第捌席、ボコボコ確定。下手したら病院送り。
相手があたしでよかったね、第捌席くん。慰めの言葉をあたしの心の中で唱えておく。