「行ってきます」
玄関のドアを開け、一歩外へ踏み出せば、あたしは仮面を被る。
ふわりと吹く風が、真っ白なワンピース型の制服を靡かせる。
珍しく、あたしより早く、家の前で待つ一人の男に声を掛ける。
「おはよう、祈織」
「ん」
スマホから目を離すことなく、適当な態度で、いい加減な挨拶を返すのは、あたし家のお隣さんである、菊坂 祈織《キクサカ イノリ》だ。
彼とあたしは幼馴染み、所謂、腐れ縁というやつだ。
一緒に登校するのは、昔からの名残りで、高校生になった今も隣を歩き、学校へ行く。
小中学校の時とは異なり、別の高校へ進学した今も、一緒に行くのは、きっと、学校の方向が一緒だからだろう。
反対方向なら、確実に違う結果になっていたはずだ。
しかし、変なところで優しい彼は、毎朝、あたしを金菱女学院まで送り届けてくれる。自分の学校へ行くのは、あたしを送ってから。
なんだかんだで、優しいんだよね、祈織って。まぁ、外面だけはという、枕詞が必要ですが。