なーんてね。
嫌なことを思い出してしまった。やめだやめだ。
何はともあれ、八咫烏は、もうあたしにとっての過去。
そんな過去やその栄光に必死に縋り付いてはいけない。地位とか名誉とか、期待とか。
そんなものくそくらえ。
「で、君の処分なんだけど…」
グッと第捌席の男の身体が強ばった。
まぁそりゃそうだ。
消滅した今も、ある意味、伝説として噂や話だけは残る八咫烏のうちの一人が相手なんだから。
「あたしからは、もう、どうこうするつもりはないよ。約束する。ただ、女の子の扱いを改めて考えて。ね?」
これは、あくまで牽制だ。
八咫烏はあたしにとって過去であるけど、八咫烏を知る彼にとっては、ある意味、絶対的存在だ。
八咫烏の名を勝手に使うことになってしまうけど、その恩恵を今、貰ったってバチは当たらないだろう。
それに、今のあたしは、通行人Aでしかない。ただのみたらし団子大好き星人だ。
そこに、“元 八咫烏”という看板を背後に付けることで、“ただのあたし”からではなく、“八咫烏のケイ”からの言葉だと理解させられる。
つまり、彼がこれからも女の子に対し、このような働きを行うならば、相手はあたしであり、八咫烏だということ。
きっと彼は、そこまで考えていないだろう。
それでいい。それがいい。
それに、何より、
八咫烏は消滅している
________その事実は紛うことなき真実だ。