八咫烏《ヤタガラス》



「…でもさ、お兄さん」


鼻につくような声はあたしの口から紡がれる。我ながら気持ち悪いわぁと思う声でも、男を虜にするような艶やかで甘えたような、かわいらしい魅惑の声。


それを裏切るように、次に続くのは、相手をあざ笑うかのように馬鹿にした笑いを含んだ低い声だ。


「さっき会話ができていたんだから、耳があるのは馬鹿でもわかるんじゃないですかねぇ?あ、それとも、お兄さんって、耳はあっても、脳みそが空っぽってことですか?」


へへっと笑う。


直前まで続いた声とギャップのある内容に、自分で言っておきながら笑えてくるが、それと反対に男の顔は見る見るうちに険しくなる。うん、成功かな。


「お兄さん、顔怖いよ?」


耐えていた笑いを前面に出して、そう言ってやれば、余計に怒りをあらわにする。


これで、完全に交渉決裂。そして、あたしの度重なる煽りに、彼はかなりご立腹のご様子。


多分、今できる煽りや時間稼ぎはこれくらい。欲を言えばもう少し欲しいけど、今のあたしにはこれが限界。


少しは時間を稼げたが、残念。多分、タイムアップ。


時間稼ぎ失敗したし、いい感じに逃げられるような作戦は浮かばない。



これはもう、タイマン張るしかない、そう判断を下す。