八咫烏《ヤタガラス》



「キミ、逃げるなら今だよ。大通りまで出て、早く、人混みに紛れなよ」


早口で彼女に言う。


「え、でも…」


心配そうにこちらを見つめる。


きっと、あたしと違って育ちがいいんだろう。だってあいつの妹だ。


人の良い面しか見ないお人好し。そんな馬鹿の妹だ。妹の方も、同じく、都合よくつかわれるような、馬鹿なお人よしなんて、わかりきったことじゃんか。


恩なんて感じず、自分のことだけを思って、逃げればいいのに。


それでも、あたしの事を考えている。


怖いけど、逃げてもいいものかって、葛藤してるんだろうね。


だって、自分が逃げるってことは、この男をあたしに擦り付けてるということだから。


元々は、彼女の撒いた種だし。


だけどさ、多分、言わないと分からない。気を回してもらって、悪いかなと思うけどさ。


「うーん。正直、邪魔だし、足でまとい。だから、どっか行ってくれない?」


真剣さの欠片も無く、適当に、乱雑にサラッと放った言葉。言葉一つ一つの意味を取れば、どれも最低最悪。思いやりなんて全くない。


だけど、彼女はその言葉にハッとして、考え込む。


自分が無力だってことを自覚してあるから。


手を出せない自分は、ただのお荷物でしかないって理解している。


「でも」「だって」、と葛藤するなんて、いい人って大変だね、なんて頭の隅で考える。


あたしなら、恩義とか関係なく、秒で逃げるよ。


リスクがそれで軽減されるんだから。


それで自分が助かるんだから。



それに、"逃げるが勝ち"って言葉もあるくらいだ。


あたしは、あたしが一番大切だし、一番かわいい。


だから、周りに非難されようと、自分が確実に助かる道を選ぶ。


それに、そうした行動が悪いとは思わないし。