八咫烏《ヤタガラス》



たかが同情、それど同情。

返す必要のない無駄な恩義。


一方的な押し付けだってわかっている。



そう。助けるなんて考えてしまったのは、ただの気まぐれ。あたしなりのあいつへの義理の返し方。


あいつの妹なんかじゃなければ、絶対助けようなんて気、起きるわけなかった。


いや、妹だとしても、助けるなんて、いつものあたしなら、しないはずだった。


気まぐれだったとしても、そんな判断を下したあたしは、異常で、おかしかった。


いつもなら、適当に見て見ぬふりでもして、サッとその場を離れるっていうのにさ。



絡まれるやつもたいがいだけど、それを助けようとするあたしも、たいがい、__________馬鹿だ。



体の中の空気をゆっくりと吐き出す。


今度は面倒だという意味ではなくて、多分、気構えを切り替えるため。


首を絞める大男は、あたしに完全に背を向けて、女子高生の方を向いている。


あたしの存在を完全に無視し、背を向けてるあたり、ほんと残念。


隙アリアリだよ、ばーか、なんて思いながら、素早く男に近づき、膝裏に軽く蹴りを入れ、膝カックンをする。


そうすれば、カクっと面白いくらいに上手くハマり、男のバランスが綺麗に崩れる。


それと同時に、力が弱まったらしく、手が外れ、何度か軽く咳き込んだ後、彼女は大きく息を吸っていた。


「っこの、ガキ!!」


背中を向けていても、声色だけで分かる。


彼は今、物凄く怒っている。ハハッ、怒らせちった。


こりゃ反撃すぐ来そうだわ、と即判断を下して、適当にバックステップで退き、距離をとる。


くるりと方向転換する男は、鬼のような形相で、こちらに向かってズンズンと歩いてくる。


お、距離取っておいて正解。ナイス判断だよ、あたし。


まだ勘が残っていたことに安心する。