面倒臭いという気持ちをひとつ溜息に込めて吐き出し、ひっそりと近寄る。
「ねぇ、何してるの?」
「は、?」
足音を消してそっと近づいたからか、少し驚いた様子の男。まぁ、急に現れたら、誰でも焦るか。
「あれ?無視?」
「おまえには、関係ねぇだろ?」
「あ、あの、逃げた方が…「黙れよ、お嬢様」」
彼女の声に被せるように言った、地を這うような低い音程のその言葉は、紛れもなく図体の大きいこの男のもの。
そんな言葉とともに、男は彼女の方を向き、胸倉を掴んで身体を上に持ち上げる。
ありゃま、あたしの存在、無視かい?
それとも、そんなにその女子高生に手を出したいわけ?
あたしも同じ女子高生のはずなんだけどなぁ。それも同じ金菱の。まぁ制服着ていないし、金菱の生徒だとは思われていないだろうけど。
身体を持ち上げられたことに伴うように、首が絞められ始め、徐々に苦しそうに顔を歪める彼女。
ちらりとその表情を確認して、同情はするけど、そんなのお構いなしに、あたしの口は動く。
「あぁ、もしかして、あたしのこと心配してくれてた?大丈夫だよ、あたしは」
ケロリと意味も無く自分の口から吐かれた音は、想像以上に低く、自分でも驚く。
元々、声高いほうじゃないけど更に低く、暗がりのこの裏路地にスッと通った気がした。
あたしを心配するように見つめる彼女は、と言えば、さっきより、苦しそうな表情に歪めて、足をばたつかせる。
足をばたつかせたって、力ある男性にとっては、抵抗にもならない。あんまり意味無いのにな、と頭の片隅で思いながら、再度、彼女の顔を見る。
あぁ、でも、分かるよ。グッと指が首に刺さるとほんと最悪だよね。息吸いたいのに、喉元絞められて、それもできないなんて、結構辛いよね。
大丈夫、今助けてあげる。
きみのお兄さん、ほんと憎たらしくていやだけど、一応、恩があるからね。

