「さて、皆の衆! まずは座っとおせ。そして、混乱しちゅう嬢ちゃんにひとつ説明しておくと、俺や陽之介と、田中くん大橋くんは仲間じゃ。仕事仲間とでも言っておこうかのう。普段から親交がある」

 私は、こくこくと頷きながら坂本さんを見上げる。
 まさか田中さんと坂本さんが知り合いだなんて思ってもみなかった。
 奇妙な巡り合わせに目をぱちぱちさせながら、四人の顔を見渡す。

 軽く彼らの関係に触れたところで五人全員がその場に腰を下ろし、丸く円を描くような形になった。
 両隣は、坂本さんと田中さんだ。


「いろいろ話さなきゃなんねぇことがあったんすけど、こいつの前だとアレなんで……まずはオレの個人的な要件を済ませちまっていいっすか?」

「おお、構わんぜよ」

 坂本さんの許可をもらった田中さんは、私の方へと向き直り、大橋さんを親指でさしながら口をひらく。

「約束通りハシさん連れて来たぜ。ほとがら返してくれ」

「分かりました。田中さんは今日も写真のお顔と違う気がしますけど、大橋さんは確かに写真のままです! お返ししますね」

 懐から写真を取りだし、シワになっていないか手で払いながら確認したあと、そっと田中さんに手渡す。

「そういえば田中くんは、ほとがらを撮るたびに写りが気に入らないと騒いでいますねぇ。そんなに実物と違います?」

 大橋さんは田中さんの手元に渡った写真をちらりと見て、小首を傾げる。

「ハシさんの目はフシアナかよ……天野のがよっぽど分かってくれてるぜ」

 ぶつぶつとぼやきながらも、自分の手元に戻ってきた写真を見て、喜びを噛みしめるような表情を浮かべる田中さん。
 そんなやりとりを傍で眺めていた坂本さんが、興味津々といった顔でこちらへと身を乗り出してくる。

「ほとぐらふか! どれどれ……おお! 三人で撮ったが? 田中くんも男前に写っちゅう!」

「いや、そりゃねぇっすから! 逆にそういう言い方されるとへこみますから!」

「実物より良く写るほど、都合よくはできてないからな……悪く写ることはあるそうだが」

「むっちゃんコラァ! 喧嘩売ってんのか!? 今すぐ買ってやんよ! オモテ出ろや!!」

 写真を回覧しながら、なにやら場が盛り上がって来た。
 こんなやりとりを見ていると、普段から確かに交流があって、親しくしているんだということがよく分かる。

 坂本さんは、田中さんたちのことを『仕事仲間』と呼んでいた。
 ということは、中岡さんのことも知っていて、仲間である可能性は高い。


(それじゃ、やっぱり昨夜ここを訪ねて来た人というのは――)

 確信に近いものを感じ、私は懐からお守りを取り出した。
 昨夜中岡さんから預かって、首からさげて持ち歩いていたものだ。

 そしてそれを畳の上へ置き、円の中心近くへと指ですべらせる。


「昨夜いずみ屋に中岡さんが来ました。さきほどの話からすると、酢屋さんにもいらしたんですね?」

「はぁ!? なんでお前んとこに中岡さんが!?」

 両目を見開き信じられないといった表情で、田中さんがこちらへ身を乗り出す。
 それと同時に酢屋の二人は、神妙な顔つきで私の言葉に頷き返してくれる。

「偶然通りかかった茶屋で匿ってもらったと聞いていたが、やはりお前のところか。中岡さんはその後酢屋に来て、朝方には出て行った」

「詳しい話は聞けんかったし、今どこにおるんかも不明じゃ……大橋くん、そっちは何ちゃあごたごたしちゅうようじゃのう」

 陸奥さんと坂本さんは淡々と言葉をつなぎ、少し難しい顔をしながら田中さんと大橋さんに視線を向けた。

「そうですね、ここ数日は特に……」

 大橋さんは重い口調で言いよどみ、隣の田中さんは何やら苛立たしげに眉間に皺を寄せて黙りこんでいる。

 一体何があったんだろう……?

 聞きたいことはいろいろあるけれど、とても部外者が口出しできるような雰囲気じゃない。