手ぶらになった私たちは、手をつないでそれを前後にぷらぷらと小さく揺らしながら、帰りの道を歩いてゆく。

 むかし、私とかすみさんが出会ったばかりの頃――。
 忙しくて構ってくれない父の背を叩き駄々をこねる私の手をひいて、かすみさんがよく散歩に連れ出してくれていたのを思い出す。

「あ、このあたりで田中さんに会ったんだよ」

「そう……でも、よかったね。こんなに早くほとがらの持ち主に出会えて」

「うんっ! 私も驚いたよ。明日は橋本さんにも会えるし! お店は閉めてるかもしれないけど、いずみ屋に二人を連れてってもいいかな?」

「そうね……美湖ちゃんのお友達としてお招きする分には、かまわないわよ」

「お友達とはちょっと違うけどね……二人とも浪士さんみたいだから、いずみ屋としてはもうあんまり歓迎できないかな?」

 浪士への対応に頭を悩ませ、彼らから距離をおくように店を閉める決意をしたばかりだ。
 田中さんたちだけを例外視しろというのは、勝手な言い分かもしれない。

「浪士といっても、悪人だけではないでしょう? 美湖ちゃんの目で見極めるといいわ」

「……うんっ!」

 かすみさんは、いつものようにふわりと優しく笑ってうなずいてくれる。
 この笑顔を見ていると、ほっと気持ちが安らいで、つられて頬がゆるんでしまう。


「あとね、ほとがらの話もいろいろ聞けたよ! お店の人は、写真って呼んでるみたい」

「しゃしん……そうなの? 聞き慣れないね」

 小さく小首を傾げるかすみさん。
 昨夜は教えてもらう立場だった私が、今は教える側に立っている。
 そのことがなんだかちょっと可笑しくて、そして少しだけ嬉しくなって……

「写真は、これからもっと流行るはずだよ! 値段だって安くなってくみたいだし」

 つい熱く拳を握って熱弁をふるってしまう。

「ふふ、嬉しそうねぇ美湖ちゃん。それじゃ、今度二人でとりに行こうか、写真」

「うんっ! 行こう行こうっ!」

『やくそく!』と、つないでいた手をほどき、指切りをする。


 私たちが生きる毎日は、つらいことばかりじゃない。
 新しい出会いがあって、発見があって。
 わくわくすることでいっぱいだ。
 きっとかぐら屋に行ってもそれは変わらない。
 苦しいことがあっても二人で乗り越えていこう。

 私にとってかすみさんは、この世にたった一人の家族なんだから。