「肩をつかんでもらっていいので、頑張って歩いて下さい」

「ああ……。ありがとう」何とか掠れ声で返すが、声は掠れ口はガタガタと震える。思っている以上に非常事態のようだ。

 素直に女性の肩を借り、少しずつだが前に進む。女性は、立ち上がった匠が思った以上の長身で、傘を差せない事に気づき濡れる事も気にせず、傘を閉じ匠を支える事に集中する。

 時間は掛かったが、何とか女性のマンションの前までたどり着いた。

「今、オートロックを開けるので」

 支えながらも解錠し、自動ドアが開く。

「エレベーターまで頑張って」

 匠が意識を失わないように、声をかけ続けてくれている。

「5階で降りたら目の前の部屋です」

「あと少し」

 励ましの声のお陰で何とか女性の部屋までたどり着いたようだ。