絢なすひとと

社員四十名くらいの小ぢんまりしたアットホームな会社だった。
いい職場だった、大好きな仕事だったと、今も迷いなく言える。

ゆきずりという気安さが口を軽くさせるのか、気づけばわたしは隣の男性にそんな身の上のことを話していた。

熱血社長が一代で築いた会社だった。
ブライダルプロデュースを専門に請け負う会社。一つの業種に特化というのは、裏を返せば潰しが効かない危うさを(はら)むのかもしれない。

イベント業界全体を取り巻く不況、儀礼の簡略化いわゆる地味婚の風潮、そして少子化による需要の減少…理由をあげればキリがない。
社員を大切にする方針ゆえに、会社は最後まで人員整理という選択をしなかった。

そして…「わたしの力不足を許してほしい」と社長は社員全員の前で頭を下げた。
今なら負債を抱えずにすむ。みんなの退職金も賄える。取引先に迷惑をかけることなく事業を終えることがでくる。
誰もその決断を責めることなどできなかった。自分たちは精一杯やったのだと思うしかなかった。