絢なすひとと

みっともないところを見せてしまって、とぼそりと口にしてみせるけど、そんな表情にも余裕が感じられた。

「車で来てるので、お礼にお送りします」
とさらりと申し出る。

「いえそんな」
遠慮だろうか、尻込みだろうか。

「他にいまいち思いつかないんです。お茶をご馳走するでもいいけど、また時間を取らせてしまうので」

図々しさは感じないのに、するりと距離を縮めてくる。気づけば彼のペースだ。
危険じゃないか、とかそんな可能性がちらりと頭をかすめたけれど。この状況はあくまで偶然の産物だ。作ろうとして作れるものじゃない。
そもそもわたしみたいな、しがないパート勤めの女性を車に乗せて、なんの得があるんだろう。

その数十分後には、わたしは七尾さんが運転する濃紺のセダンの助手席に座っていた。

「三十分かからないくらいでお送りできそうです」
カーナビを確認しながら、七尾さんが告げる。

ありがとうございます、とシートにかけた状態でかるく頭を下げた。