絢なすひとと

そして曽祖父の惟さんは、ようやく復員したものの、家も店も焼失し妻子は行方知れずになっていた。

近所の人たちや親族に聞いて回っても分からず、空襲で亡くなったのだろうと思うしかなかったという。
まさか店員の里に身を寄せているとは想像もつかなかった。

禮子さんは禮子さんで、夫のいる部隊は全滅したという(しら)せだけがあり、戦死を覚悟した。
気落ちしながらも、守り抜いた反物を元手に店を再建すると決意して、東京に戻ることにした。禮子さんの気立や働きぶりを見こんだ越後の人たちも、後押ししてくれた。

惟さんは軍人恩給を元に、ようやくほづみ屋の再開にこぎつけていた。
店を手伝ってくれた女性、初枝さんとささやかながら所帯も持った。

そこへ息子の手を引き、反物を抱えて禮子さんが帰ってきた———

互いに相手は亡くなったものと思いこんでいたので、仰天したそうだ(それはそうだろう)。
初枝さんのお腹には新しい命も宿っており、今さら離縁というわけにもいかず、惟さんははからずも二つ家庭を持つことになってしまった。

七尾家の二つの家、とはそういうことだった。