絢なすひとと

「詮索するつもりはなかったんですけど、なにか…親族争いみたいなことがあったのかと。二つの家がどうこうという話し方をされていたので」
彼の優しさに甘えて、立ち入ったことまで聞いてしまった。

「長いような短いような、曾祖父(ひいじいさん)さんの代に遡る話なんだ」
司さんはやや改まった表情を見せる。

それは少し複雑な七尾家にまつわる話だった。

司さんの曽祖父でほづみ屋の店主である(ただし)さんは、その時代の例に漏れず召集され戦争に行った。
惟さんの妻で司さんの曽祖母である禮子(れいこ)さんが店を守っていたけれど、戦況の悪化で、ほづみ屋も休業を余儀なくされていた。
禮子さんは蔵にあるほづみ屋の宝である反物を守るために、伝手を頼りとある女性店員の里である越後に移すことにした。

どうにか牛車を手配し反物を積み、自分と幼い息子と店員の女性の三人で、密かに越後に向かった。
里方の越後の織物工房に反物を預けて帰京しようとした矢先に起きたのが、東京大空襲だ。
禮子さんは帰るに帰れなくなり、結局終戦まで越後に留まることになってしまった。