絢なすひとと

「明里のおかげだ。あのとき君と出会って、差し出してくれた手をとって、すべてが始まったんだ」

「わたしそんな…」
熱いものがこみ上げて、目の縁がじんと緩んでくる。

「その手を離したくないから、思い悩んでいることがあるなら力になりたい」

そのために、わたしをここに連れてきてくれたのか。

「つ、つまらないことなんです」
つっかえながら口に出してしまうと、それは本当につまらないことに感じた。
昔馴染みのお客様の着付けの際の、他愛もないおしゃべりがきっかけの。

周りの方は、司さんと桜帆さんが結ばれることを期待しているのではないか。
それが “二つの家” にとってもいいことだから、と。
そんなことを耳に挟んで、自分が司さんにふさわしくないのではと思ってしまった———

わたしの話を聞いた司さんは、一瞬口をへの字に曲げて、すぐに一文字に戻した。
とりあえず、と唇を解く。
「桜帆とのことは、全くの誤解だし、あり得ないと言っておくよ。お互いそんなこと意識したこともないし、又従兄弟とはいえ親戚なわけで」