絢なすひとと

石張りの路面に竹が植えられ、その一角は和を意識した雰囲気だ。

すっきりした黒のアイアンのフレームに一面のガラス張りのウインドウ。
この中に、ほづみ屋が入るのか。ガラスを透かし見ると、内装はほぼ完成しているようだ。
落ち着いた色調の空間が広がっている。
色とりどりの呉服を並べて暖簾を下げれば、すぐにも新装開店できるだろう。

あとは———

「ショーウインドウになにを据えるべきか、ずっと考えていたんだ」

隣に佇む司さんの言葉に、彼を見上げる。

店の顔になるわけだから、と言葉を続ける。視線は店内に注がれている。
腕を(たもと)に入れて組み、どこか遠くを見るようなまなざしだ。

「日本の中心地に建つビジネスセンターであり、観光のために訪れる人も多い。場所柄、外国の人も行き来する。そんな場所で、今の時代にふさわしい着物はなんだろうと」
独白のようでもある口調だ。
「人間国宝の方の手による友禅、あるいは一年以上かけて作られる総絞りの大振袖。豪奢で人目を惹くものをと思ったが、なにか違う気もしていた」