絢なすひとと

「着物姿が板についてきたな」

わたしのことを言ってくれているみたいだ。
「自分で着付けができるようになると加減が分かるから、やっぱり楽です」

そうだな、と彼が目元をやわらげる。

ほづみ屋を継いだのは想定外とはいうものの、司さんは七尾家のひとだ。
幼い頃から親族の集まりというと、当たり前のように着物だったとか。
おかげで一通りの着付けはできたというけれど、仕事となると求められるレベルは段違いだろう。

彼も人知れず努力をしているんだろうか。そんなそぶりはちらりとも見せないけれど。
スーツと同じくらい、いやそれ以上に、最上級の夏の着物をしなやかに着こなしている。

制服姿の係員に誘導されて、新店が入るテナントビルの駐車場に車を止めた。

エレベーターで建物の表側に出た。
林立するビル群が一つの街を形成している。
新店舗が入るのは、路面にも接している地階の角地だ。人目に触れやすく、立地としては最上だろう。
それは同時に、ほづみ屋への期待値の高さをも意味している。