絢なすひとと

七尾さんの向かいにかけて、わたしもお茶をすすった。うーん、舞い上がってて香りがよく分からない。

「とくにご飯が、あんな凝った卵かけご飯、初めて食べました。あれは黄身を醤油に漬けているんですか?」

彼の言葉に、そうです、と頷く。
「ぜんぜん凝ってないですよ。黄身と白身を分けて、黄身だけ一晩醤油に漬けておくんです。漬けるときは、買ったときの卵パックをそのまま利用して。くぼみにラップを敷いて、そこに黄身を落として醤油をかけてくるむと、醤油の量がちょっとですむんです。
あとは、白身に火を通すときにごま油を使うのがコツくらいで。やっぱり香りがいいので」

「創意工夫で、シンプルな食材でもご馳走になるんですね」
感心しきりといった様子だ。

褒められてばかりいるとドギマギしてしまうので、わたしも話題を探してみる。

「あの失礼ですけど、七尾さんは金融関係のお仕事をされていらっしゃるんですか?」

その通りです、と気負いのない調子で返ってくる。

「やっぱり資産運用とかって、やったほうがいいんでしょうか」
とはいえわたしには運用するほどの資産もないけれど。