絢なすひとと

出汁に味噌を溶き、具はワカメだけで、とにかく時短を優先した。

お待たせしました、とテーブルにつく彼の前に並べると「全然待ってないですよ」と大真面目に返ってきた。
言葉が丁寧で、なんというか自然な思いやりが伝わってくる。

いただきます、とお椀を手にする。
人が食事をしている姿を見つめるのは(はばか)られて、わたしは流しに向かって後片付けをした。
水音の合間に、小気味よくかきこんで咀嚼する音を耳が拾う。若い男性の食欲は気持ちいいくらいだ。

やかんにお湯を沸かす。湯飲みは二つ、でいいだろう。
急須でお茶を淹れる頃にはもう、ごちそうさまです、と彼が箸を置くのが横目に映った。
お茶碗もお椀もきれいに空になっているのを見ると、ちょっとホッとする。
お粗末さまでした、と食器を下げてお茶を出した。

「とんでもない、こんな美味しい夕飯をいただいたのは久しぶりです」

口調からするとお世辞ではなさそうなのだけど。
高級懐石や三星レストランの料理を食べ慣れていそうな人の口からそんなことを言われると、戸惑いが先に立ってしまう。