絢なすひとと

「狭いところですみません。すぐ用意しますから」

謙遜ではなく、わたしが住む1Kのマンションには、長身の七尾さんはいかにも窮屈そうに映った。

「あ、いえ、おかまいなく」
とにこやかに言ってくれたけど今さらながら、ちょっぴり後悔する。いかにも育ちが良さそうな七尾さんは、こんなウサギ小屋みたいな家に来たのは初めてじゃないかしら?

なるべく急いで軽食をこしらえる。口に合うかは自信がないけど、小腹を満たせるものを。

手鍋に出汁を注いでコンロにかけた。
小分けにしてラップに包んでおいた一膳分のご飯を、レンジで温める。
次いで、フライパンにごま油をひとたらし。熱して香りが立ってきたら、タッパーに分けておいた卵白を流し入れる。

みるみる固まって透明から白に近くなったあたりで、さじで水を数滴たらした。
ジュッという音を閉じこめるように、すかさず蓋をすると火を止めて蒸らす。

チンしたご飯を茶碗によそい、海苔をちぎってまぶした。
その真ん中に、昨夜白身と分けて醤油に漬けておいた黄身を、ぽんと落とす。
火を通した白身を、細かく刻んで黄身をかこむように散らすと、特製卵ご飯の出来上がりだ。