それはなんの変哲もない、ある日の午後のことだった。
その時わたし、森崎明里は仕事帰りで、ショルダーバッグを肩にかけて、もう片方の手にはエコバッグを提げていた。
そんないつもの外出の装いで、複合テナントビルの上りのエスカレーターに乗っていた。
なにかが起こる予感なんてあるわけもない、日常の一コマだ。
一段置いて前に立っているスーツの男性の、すらりと伸びた脚とプレスの効いた生地と、なめらかな艶を放つ革靴に、なんとはなしに視線を留めていた。
靴紐ほどけそうだな…と思ったか思わなかったか。
ステップに触れていた目の前の人の靴紐が、くし状になっている乗降板の境目に引っかかり、そのままシュルシュルと内部に巻き込まれてゆく。
その時わたし、森崎明里は仕事帰りで、ショルダーバッグを肩にかけて、もう片方の手にはエコバッグを提げていた。
そんないつもの外出の装いで、複合テナントビルの上りのエスカレーターに乗っていた。
なにかが起こる予感なんてあるわけもない、日常の一コマだ。
一段置いて前に立っているスーツの男性の、すらりと伸びた脚とプレスの効いた生地と、なめらかな艶を放つ革靴に、なんとはなしに視線を留めていた。
靴紐ほどけそうだな…と思ったか思わなかったか。
ステップに触れていた目の前の人の靴紐が、くし状になっている乗降板の境目に引っかかり、そのままシュルシュルと内部に巻き込まれてゆく。



![he said , she said[完結編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1737557-thumb.jpg?t=20250401005900)